-テーマ-

生まれる場所を選べなかった人間たちの、現実からの逃避行。


-企画意図-

「何もない」と⾔われる町がある。⼤抵は本当に何もないことなどなく、よく⽬を凝らせば、わずかかもしれないがその町の特⾊や魅⼒といった部分が⾒えてくる。しかし、そういった特⾊や魅⼒を感じられない⼈であるからこそ、その町を「何もない」と形容するのである。「何もない」という⾔葉には、その町に⾝を置き続けることへのどうしようもない不安さえ含まれているようである。そんな不安の中にあるが、⾃分のいる場所から抜け出せない若者たち。そうした若者たちを主人公に設定し、閉じられたコミュニティから抜け出す困難さや、⽣まれる場所を選べないがゆえの苦悩を描き出そうとした。


-あらすじ-

海も川も⼭もこれといったランドマークもない某県陽河市。ヤノヒデキは、その陽河市の隣町の役所に勤める23 才。彼は地元のアパートを借りて、⼩中学校時代の同級⽣であるマスタニリョウと半同棲のような⽣活をしていた。そんなある⽇、⼤阪で恋⼈と暮らしていたヒデキの姉ミワコが、破局をきっかけに地元に帰ってくる。彼女は、実家に戻らずヒデキの家にやってきた。マスタニはヒデキとミワコとの3人暮らしを期待するが呆気なく追い出され、それからは中学校の同級⽣タケルが率いる謎の密売組織の仕事に⼿を貸すようになる。仕事内容は、密売組織の拠点である倉庫から段ボールを運び出し、指定の場所に送り届けるというものだった。⾏動しても何も変わらない現実がそこにはあり、その中でマスタニとミワコはもがき、苦しむ。しかし、姉と友⼈のそんな姿を⾒ても、ヒデキはただ傍観することしかできないでいた。それはまるで海を知らないリクガメのように、彼は⾃分が溺れてしまうのが怖かったのだ。